回答と解答は別物

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです村上春樹ノーベル文学賞を取り逃した夜、彼の新作インタビュー集を読んでいる。
夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文藝春秋)には1997年から2009年までに国内外で村上の受けたインタビューがまとめられている。この時期に書かれた作品を時系列で並べてみると、『アンダーグラウンド』から始まり『若い読者のための短編小説案内』『約束された場所で』『スプートニクの恋人』『神の子どもたちはみな踊る』『シドニー!』『海辺のカフカ』『アフターダーク』『東京奇譚集』と続き、『走ることについて語るときに僕の語ること』に至る。最後のインタビューを受けたときには『1Q84』のBOOK1と2を書き終えていたという。
つまりは近年の村上春樹の評価や位置づけが決定的なものになった時期のインタビューということである。
極端にマスコミに登場することを拒み続けていた作家ゆえ、この種のものはほとんどないのかと思っていた。海外のメディアに発表されたものがかなりあるため、思っていた以上にずいぶん多い、ということらしい。
インタビューの中で村上自身が「作品のテーマとか、その物語の意味性とか、文学的位置とか、メタファーの解析とか」、そういう大きな事柄については答えたくないと述べている。それらは基本的に読者の問題であり、読者に委ねたいとし、さらには自分がその種のことを述べたとしても、読者の考えより正しいという根拠はないとまで潔く言いきっている。文学という行為、営みを思えば、まったくもって正論であろう。ということで、この本の帯の惹句の通り「回答はあっても解答はない」ということになる。
10年後の高台から10年前の地平を俯瞰する。欠落した解釈のピースが見つかったり見つからなかったり、そういうおもしろさを感じる。