マイ・バック・ページ

マイ・バック・ページ - ある60年代の物語山下敦弘全共闘運動の時代を描く。当時の「熱」をよく伝える川本三郎の同名本を原作とする。
叙情的な作風を得意とする山下は、はたして、政治的な部分は映画を構築するための小道具として使うのみで、硬質な時代のドキュメンタリーとして仕上げようとはしない。それは立場の違いであって、作品の優劣とは関係のないことである。「1969」の文字やその頃の記録映像がいくらスクリーンに踊ろうとも、それ自体が積極的に語られることはない。
では何がそこにあるのか。妻夫木聡演じるジャーナリスト澤田の言動に、私は熱い感情の高ぶりの向こう側に避けがたく横たわる諦観や喪失感、無力感を強く感じた。劇中、沢田が思いを寄せる女性は「男の人が泣くのを見るのは好き」と何かを暗示するかのように語る。ラストシーンで沢田は涙を流すのだけれど、よくよく考えてみると、彼は全編で涙を流し続けているかのような存在だった。確かに手の中にあるはずのものが、次の瞬間、こぼれ落ちる砂のように儚く消えてしまう。その切なさと言ったら。そして何も掴み得なかったのは、沢田の取材対象であった梅山(松山ケンイチ)もまた同じであった。
実感がないという実感が残る。まさにあの時代の空気感そのものではないか。渋谷TOEIで鑑賞。