涼宮ハルヒの消失

涼宮ハルヒの消失 限定版 [Blu-ray]この春にwowowでテレビシリーズの全話が放送された「涼宮ハルヒの憂鬱」を見ておいたおかげで、何とかこの劇場版アニメの不親切な展開にもついていけた。そして大いに楽しんだ。原作ライトノベルやテレビシリーズを知らないと、おそらく理解しがたい箇所があちこちで出てくることになると思われる。しかもそれは作中人物を繋ぐ感情のありようや世界を形成する空気感のような本質的なところに関わってくる。もともとはこの「ハルヒ」シリーズの過去をよく知っている人たちのための作品なのであろう。
さて、本作は2時間43分もの長尺である。一般的な娯楽映画ではありえない長さで、普通はひるむ。しかし、いったん物語に入り込むと、時間はいっさい気にならなかった。時空を自在に飛び越えて、錯綜する事実や人間関係を辿りながら、次第に謎の核心に接近していく手法は、この作品の最も得意とするところである。細部まで緻密に作り込まれ、その長時間を各場面で「間」として絶妙に使い切ったところは、そのへんの凡百のドラマのよくするところではない。段取りのように話を進めることに忙しい凡作に、ハルヒの爪の垢を煎じて飲ませたくなる。
日常と非日常の往還に織り込まれたキョン長門らの思いの切なさは、いつしか「あの頃の私」のそれと重なるようにも思える。宇宙人や未来人や超能力者や現実を改変する妄想娘が活躍するけれど、胸の奥がじんと熱を持つような既視感を覚えた。