乱暴と待機

乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)本谷有希子の戯曲、小説を原作としていること、その原作はそこそこおもしろかったこと以外の予備知識なしで、この映画を観た。ほんとはわけのわからない映画*1を作った監督の作品なので、なんでこんな組み合わせ(好き+嫌い)にしたのだろうと、けっこう後ろ向きな気持ちがあった。「パビリオン山椒魚」は主演のオダギリジョー香椎由宇の結婚のきっかけになったこと以外に存在意義はないと思う。
その前作では脚本まで監督が担当したため、冒頭からわけのわからない独りよがりな展開と演出が続いて、たいていの映画には耐えることができる私も、これ以上の苦行はないと感じた。それが「乱暴と待機*2」では本谷有希子の個性が勝って、物語としてきちんと成立している。もうそれだけで快哉を叫びたくなった。勝利! 勝利!!
原作の細部の設定をいくつか変更しているものの、おおむね忠実に作られており、世界の不条理さを描こうとするところはきちんと守られていた。この物語で強調される「見る見られる」関係は、すなわち「支配被支配」という人間関係の鏡であるが、そうした絶望的なありようは決して固定的なものではなく、容易に転覆、交代し、新たな世界(新たな不条理)が生成される。「ルビンの壷」のような図と地の反転する絵が、四人の男女(浅野忠信、美波、小池栄子山田孝之)の関係を描くものとして、入れ子のように複雑に絡み合っている。
やっぱり原作がいいんだろうね。相対性理論の緩い感じの音楽が変な話によく寄り添っていた。