コクリコ坂から

スタジオジブリ・プロデュース「コクリコ坂から歌集」手嶌葵の身の内に染み入るような柔らかな歌声を聴きながら、いい気持ちになっていた。自分の生まれ育った時代とも場所とも違うのに、どこか懐かしさを感じさせるアニメーションだった。
パンフレットの宮崎駿の言葉を読むと、原作漫画そのものには相当不満を持っていることがわかる。一言で言えば古臭く類型的すぎると。企画・脚本担当の宮崎は陳腐な漫画的演出をことごとく切り捨て、きちんとした現実感のある世界に再構築した。
ジブリ特有のご都合主義と道徳臭がほのかに感じられるものの、直球勝負の「ボーイ・ミーツ・ガール」ものとして、よくできているのではないだろうか。主人公の二人の高校生にたやすく感情移入できることがなによりである。
今年の春以降よく聞こえてくる坂本九の「上を向いて歩こう」、私はこの歌が大嫌いなのだけれど、この映画の中では嫌な響きはなかった。きっと無理矢理上を向かされている感じがないからだと思っている。海ちゃんも俊君も誰に言われずとも上を向いている。それが心地よい。新宿バルト9で鑑賞。