抵抗 死刑囚の手記より

9月にwowowで放映されたロベール・ブレッソンの映画5本を録画したままにしてあった。まずは「抵抗 死刑囚の手記より」を見た。
ナチスに捕らえられたフランス人士官が独房に入れられる。処刑を待つだけの絶望的な状況下で、脱獄を決意し企てる。全編を通して恐ろしいまでの緊迫感があって、見終えた後は喉がひどく渇いていた。結末はわかっているはずなのに、息苦しくて仕方なかった。
1956年のモノクロ映画の画質は、どこか古い記録映像めいて、必ずしも瑕疵とはならない。乾いたモノローグにのせて、脱獄完遂への地道な作業を淡々と映し出す。手や顔をクローズアップして見せる手法は、対象との距離感もあってか、よりいっそうの緊張をもたらす。一方、音楽は哀しげに響くモーツァルトの「ミサ曲」のみで、聴覚はもっぱら状況判断のための物音を拾うのに使われる。これがまた緊迫感を高めるのだ。足音や銃声、ガラスの割れる音、木片の落ちる音など、いちいち怖い。いずれにしても、よけいな演出やむやみに感情移入を煽る表現のいっさいないのが好ましい。
同じ監獄に収容されている人々との交流の場面でも、誰を信じてよいのか、見ているものは、主人公とともに悩まされることになる。脱獄ものと聞くと、大味なアクション活劇を想起しがちだけれど、この映画はまぎれもなく上質なサスペンスそのものであった。
←1分17秒あたりから