2人でさとがえる
いろいろな方面のアーティストとの共演を果たす上原であるが、何の違和感もなく素直にその世界に入り込めるのが、矢野顕子とのコラボレーションである。幸運なことに過去の3回の共演に接することができ、いずれもたいへんに心を打たれた。思えば上原ひろみの生演奏に初めて接したのも、矢野顕子と初共演を果たした昭和女子大学人見記念講堂でのライブだった。今回は夏に録音したライブアルバムをひっさげ、初めて2人でツアーを構えた。期待感はいや増すばかりである。
1曲目はもはや懐かしい感じすらする「そこのアイロンに告ぐ」だった。矢野のアルバムに上原が初めて参加した時に演奏した曲であり、彼女の超絶技巧と独特のスピード感は完全に原曲を新しいものに作り替えてしまった。ところが、2人の掛け合いに恍惚としながらも、ライブが進むにつれ、少々これまでと違う緩さも感じた。どうも矢野がお疲れ気味(?)のようで、今一つピチッと決まらず、全体の印象がぼやけた感じに思えたのだ。特に背筋がゾクゾクするほどの緊迫感を味わえた二度の人見記念講堂のライブのことを体が覚えているものだから、よけいにそう感じたのだろう。もちろんライブは生きたものでいつも同じコンディションであるはずがない。本編最終曲が終わった後、会場が総立ちにならなかったのは、そうしたことを聴衆が感じ取っていたからだと思う。こういう日もあるだろう。終盤になるにつれ、明らかに矢野が疲れているのがわかって、ちょっと気の毒に思えた。
そういうことだから、この日最も心が震えたのは、上原ソロの「HAZE」だ。この曲の演奏を聴くのは4度目になるが、ハズレがない。静かな曲なのに、聴衆の熱がどんどん上がっていくのがはっきりと手に取るようにわかる。すすり泣きも聞こえてくる。上原の曲の中でもとびきりの名曲だと思う。共演したものでは「Cape Cod Chips」「Children in the Summer」の2曲がよかった。アンコールの「ラーメン食べたい」は必ず盛り上がる鉄板曲だ。いつものことながら、ラーメンのことが頭をよぎる。
次は当分ないだろう。あまりにも濃密すぎて、毎年できるようなものではない。上原の超攻撃的な演奏スタイルがもう少しまろやかさを帯びた頃、矢野のいい意味での緩さによりマッチしたものが産み出されるに違いない。その時を楽しみに待ちたい。
セットリストは折り込む。
矢野顕子×上原ひろみ
今年は2人でさとがえるツアー 〜Get Together〜 2011年12月11日(日) NHKホール
【第1部】【第2部】
- しあわせなバカタレ(矢野ソロ)
- こんな所にいてはいけない(矢野ソロ)
- HAZE(上原ソロ)
- 月と太陽
- Lean on Me
- Children in the Summer
- りんご祭り
【アンコール】
- ラーメン食べたい
- Green Tea Farm