沈丁花の香りとあの日

これといってパッとしたこともなく、淡々とした日常が積み上げられている。だいたいが、人と会ったり、人と会ったり、人と会ったり、つまりは会議の繰り返しであるのだが。
退勤の途中で沈丁花の香りが漂ってきた。この匂いを嗅ぐと、大学の合格発表の日のことが今でもはっきりと思い出される。期待した結果を得て坂道を下っていると、どこからともなくこの花の芳香が漂ってきた。そして、何とも言えない解放感に包まれて、とても幸せな気持ちになった。それはもう圧倒的で決定的で何の留保もない幸福感だった。あの時の高揚した気分は、きっと18歳の特権で、たぶん二度と同じ気持ちを味わうことはできない。
私が圧倒的な高揚感をおぼえたあの山道を、これから毎日のように娘が通うことになる。彼女も私と同じような幸福感を感じる瞬間があるだろうか。聞かないけれど。
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