やから・続

宿題を思い出して、手近にある辞書類をザッピング*1してみた。
広辞苑』(岩波書店)は『日葡辞書』(17世紀)にクレーマーの意での用例があることを指摘していたが、ライバルである『大辞林』(三省堂)には見られない。仲間や一族といった一般的な意味だけが記される。他のポピュラーな中型小型辞典もほぼ同様である。そもそも近代的国語辞典の嚆矢である大槻文彦の『言海』(1889年)にも「(1)一家の親族、ウカラ、一族 (2)トモガラ、ナカマ」という記述のみであることから、明治時代にはすでにクレーマーの意は一般的でなくなっていたとおぼしい。『古語大辞典』(角川書店)や『広漢和辞典*2』(大修館書店)でもクレーマーの意の解説は見られない。『古語大辞典』が『日葡辞書』の用例を無視しているのは気になるところだが、やはり広く使われるような意味ではないという判断なのだろう。
日本国語大辞典 第二版』(小学館)には「族」「輩」とは別の項目として「やから」が立てられている。さすが。

不平や苦情。また、不平を言ったり口論をしかける者。やからもの。

こう解説したあと、『日葡辞書』と『葉隠』(18世紀)の使用例を掲出する。しかし、新しいものになると、「方言」として一括りにされる用例が示されるのみである。広く西日本全域*3にクレーマーの意の「やから」が広がっていることが知れる。おもしろいのは、子供のわがままや駄々をこねることを「やから」で言い表す方言が多いということである。確かにクレーマーと駄々をこねる子供は近い。なお『日国』の別巻の方言索引にも「やから」は取り上げられていたものの、『日本方言辞典』(小学館)や『地方別方言語源辞典』(東京堂出版)にはいっさい指摘がない。
一次資料に当たったわけではないので、なんとなくキレが悪いけれど、どうやらこのあたりが決着点らしい。まぁそういうことでひとつよろしく*4

*1:使い方がおかしいか!?

*2:大漢和を見ろという声が聞こえてきそう

*3:岐阜・三重・兵庫・長崎・香川・鹿児島・宮崎・熊本など。新潟にもあるのは周圏論的な広がりを考えるべきか。

*4:誰に言っているんだか