秋津温泉

岡田茉莉子の映画出演百作記念作品である。監督は後に岡田と結婚することになる吉田喜重。だからかどうかは定かではないが、岡田茉莉子を美しく撮ることに専念した映画のように見えた。淡いカラーの色調が美しく、岡田の和服コスプレを堪能することができる。あんな衣装持ちの美しい女将が山間の鄙びた温泉街にいるなら、あ……。
煮え切らない無責任な男にどこまでも振り回される女という結構は、成瀬巳喜男監督の名作「浮雲」と似ており、既視感を覚えるようなものだった。結末もしかり。約15年くらいの時間が流れているはずなのだが、それを感じることは難しい。数年ごとに長門裕之演じる無気力身勝手男が温泉街を訪ねてきても、岡田女将はいつまでも歳を取らない風情だし、なんだか昨日の続きを見せられているような印象があった。岡田のプロモーションビデオだと思えば、それも悪くはない。それより長門裕之がどうしても桑田佳祐に見えて仕方がなかった。
綺麗な映像と無理矢理な悲劇。音楽が五月蠅すぎるのに閉口する。1962年の作品。