紀子の食卓

紀子の食卓 プレミアム・エディション [DVD]愛のむきだし」(園子温監督)がおもしろかった*1ので、棚にしまい込んでいた「紀子の食卓」を引っ張り出してきた。これまた二時間半の長尺で、いくつかのチャプターに分けられているのも同じである。しかし、「愛のむきだし」(こちらは4時間)のように一気に最後までとはいかず、けっこう休憩しながらようやくエンディングということになった。
何がつらいかといえば、二十代半ばの吹石一恵が十七歳という設定で出ていることである。どう好意的に見ようとしても、高校生には見えない。もちろんオペラなどで熟女な歌手が少女を演じることがあり、そういうことも「アリ」だとは思うのだけれど、この映画では吹石の醸し出す違和感が神経を逆なでして、素直に物語に入り込めなかった。この人を別の俳優に替えるだけで、ずっと引き込まれるものになったと思う。もちろん「私には」という但し書き付きで。吹石の妹役を演じた吉高由里子も同じく二十代であるのにも関わらず、女子高生役に不自然さがなかっただけに、惜しい。気配とか佇まいは演技の巧拙ではどうにもならない。
現実の人間関係を断ち切って、新たに構築する虚構の家族という問題は、「愛のむきだし」を見た時点から遡ると、まさに新興カルト教団のありようと相似形である。園子温が、役割としての立場、いかようにでも変容する人間関係をテーマにしているのだとすると、虚構のレンタル家族を描く「紀子の食卓」はまさにそれを先鋭的に扱った映画だと言えよう。形骸化した人間関係を実体のあるものとして見せるために、モノローグの洪水が襲いかかる。語れば語るほど空疎になっていくジレンマはもまたわがことのように思われる。2005年。