野口里佳の駱駝

morio01012009-02-12

野口里佳*1の新作が出た。実に2005年の『In-between13 チェコキプロス』以来の写真集である。
淡いペパーミントブルーの表紙を持つ『砂漠で(In the Desert)』と題された写真集は、野口がアラブ首長国連邦で撮影した駱駝レースの光景を収める。やや引いたところから淡々と対象を眺める手法はいつもの野口調である。過剰に対象に入り込むことがなく、かといって、無関心を装うでもなく、見るものにそこで何が起こっているかを考えさせるような余白の多い写真になっている。
レースと言っても日本の競馬場のような喧噪に満ちているわけでない。まして世界の富が集結するこの国の首都ドバイの拝金主義が写し出されているのでもない。そこにあるのはどこまでも静謐な世界である。いずれの写真も広い空と広い大地が背景となり、その前景に駱駝や人が点々と生きている。豊穣な時間や精神といったものをつい考えさせられてしまう。
丁寧に一枚ずつ写真を見ていき、最後に裏表紙まで辿り着いたとき、そのペパーミントブルーは彼の地の空の色であったことに気づく。むむぅと嘆息する。
 参照:2007年の野口里佳写真展についての拙日記→ココ
この写真集は限定700部である。野口ほどの作家でもこの刊行数であるところに、写真界や出版界の直面している問題の難しさがうかがえる。