三浦しをん『風が強く吹いている』

頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ

素人集団(うち2名はトップクラスのアスリート)がたった10人で箱根駅伝出場を目指す。そこにリアリティがあるのかないのか、これまでこの競技に無関心だった私にはわからない。ただ荒唐無稽だと思わせないだけの説得力がある。ランナーの心中描写やメンバー同士の会話の妙もさることながら、疾走感をダイレクトに感じさせる描写がとてもいい。レースシーンになると、走る彼らとともにページを繰るスピードがますます増していった。

必ずそこまでたどりつく。強く吹く風が教える。俺は走っている。俺の望んだとおりの走りを、俺はいま体現している。すごくいい気分だ。これほどの幸福はない。

こういう気分はいいだろうなぁ。長距離走が嫌いな私*1には一生味わえない感覚なのが少し口惜しい*2

*1:自分で走る方。見るのは嫌いじゃない

*2:新潮社・2006年