鉄コン筋クリート

morio01012006-12-26

原作の絵に濃密な圧縮空気を送り込んだかのような映像を背景にして、クロとシロがスピーディーに動き回る冒頭を見ただけで、すでにこの作品の凄みを感じることができた。「俺の街」宝町は確かにそこにあった。
監督のマイケル・アリアスは「これは、愛、友情、変化についての物語です」と語るが、そうしたわかりやすい主題がこの作品に必要であったのか*1。それ以前に「鉄コン筋クリート」の内包する猥雑さや非合理的世界観あるいは少年期特有の不分明な精神状態が、スクリーン上にきちんと再現されているならば、それで十分ではないだろうか。松本大洋の原作もある種のテーマに導かれて物語を紡ぎ出したというよりも、自在に動き回るクロとシロをなんとか物語の中に押しとどめたような趣がある。完成した映画は監督の思惑を飛び越えて、「愛、友情、変化」といったわかりやすさをも飲み込みながら、もっと巨大なカオスを観客の前に差し出してくれる。それはまさに原作の持つ力という他ないだろう。

ソコカラナニガミエル?
ヒカリガミエル? ユメガミエル?
ココカラハナニモミエナイ。
シンジツガミエナイ。キボウモミエナイ。
ソコカラナニガミエル?
ココカラハナンニモミエナイ。
ココカラ ミンナガ ミエルヨ。

「嫌な感じ」と「安心」の間を往還するクロとシロの姿は、そのまま私たちの心のありようであったのだなと、食べ過ぎたキャラメルポップコーンに胃もたれしながら、ふと思ってみたりした。109シネマズ箕面で鑑賞。

公式サイト http://www.tekkon.net/

*1:監督なりの解釈が作者の思惑から離れるのは至極当然