腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

morio01012007-07-12

「なにものにもなれない、あなたの物語」というコピーが踊る。
本谷有希子の原作がすこぶるおもしろくて、しかもクレジットされている主要キャストが曲者揃い*1とくれば、期待感はいや増すばかりである。果たせるかな、小説の中の戯画化された世界がスクリーンに生々しくかつ濃密に展開している。無論、一読者の思い描く原作の世界を再現していることが、映画の質の高さの保証になどなりはしない。念のため。
才能のない女優崩れの若い女がかつて捨て去った故郷に訳ありで出戻ってきて、さらに荒れ放題に荒れ果てるという話。普通は「故郷に癒されて立ち直ったの」とか「本当の自分を生まれ育った場所で見つけたわ」とか、ハートウォーミングな展開になりそうなところだが、決してそうはならない。隠しきれないやさぐれ感、そこがよい。もともとが演劇用の戯曲であるせいか、特定の人物の内面に入り込むとか視点人物が設定されるとかといったことがなく、客観的な視点から各人物や事件が淡々と俯瞰されていく。その過剰に描きすぎないドライなタッチが好ましく感じられた。これを内面まであからさまに見せようとすると、ドロドロしすぎてたまらなくなるだろう。
特筆すべきは佐藤江梨子である。話の核に位置する求心点として圧倒的な存在感を見せつけている。怖いほどに。まぁ見た目からして圧倒的なんだけど*2。自分は他人と違う特別に選ばれた人間なのだと勘違いする狂熱の主人公を、この役以外の他にどういう使い途があるのか*3とこの先が心配になるほど、強烈に演じている。この際、歌舞伎役者との醜聞もすべて芸の肥やしになったのかとつい……。
ともあれ楽しめました。渋谷シネマライズで鑑賞。
公式サイト http://www.funuke.com/index.html

*1:佐藤江梨子佐津川愛美永瀬正敏永作博美

*2:上映終了後、「サトエリ、スタイルよすぎ」「足細〜い」「○○おっき〜い」などの声多数

*3:キューティーハニーもよかったぞ