鈴木理策@写美

morio01012007-09-21

会議に忙殺される金曜日。忙殺といっても、じっと座って聞いているだけの時間の方がどうしようもなく長いのだが。まぁ下っ端なものでね。
大阪に帰る前に恵比寿の東京都写真美術館に立ち寄って、鈴木理策の写真展を観ることにする。大阪に戻るのが深夜になってしまうけれど、このタイミングを逃すと、またしても観ないまま終わってしまいそうだから。
会場に入るやいなや、一枚一枚静謐な写真の圧倒的な存在感に息を呑む。今回は、ライフワークのように続けて撮影している「熊野」と、最近の作品「桜」、さらに最新の未発表作品「雪」を組み合わせた展示になっている。第1展示室に「熊野」を、第2展示室に「桜」と「雪」を配する。
まず第1室では、「熊野」という幽遠な聖地を追体験させるかのごとき薄暗い空間に、かの地の森や川や滝がぼんやりと浮き上がるように光が当てられている。細部まで丁寧に掬い取られた緻密な画面の美しさといったら。とりわけ本展のメインビジュアルになっている「海と山のあいだ」は、名刹の襖絵、障子絵のごとき見事な相貌で、完全にその前で釘付けになって動けなくなった。これを観られただけでも来た甲斐があったというものだ。
薄暗い通路には少し小さめの熊野の神事の写真と舞い散る雪の結晶の写真が並べられている。そして第2室へ。
完璧な白の世界! 思わず「わぁ!」と声を漏らすほど*1の真っ白の世界*2である。そこに雪と桜の、これまた白に象られた写真が居並ぶ。一見、露出オーバーで真っ白に見えるような画面であるが、よくよく観てみると、細かな雪のうねり、さらには結晶まで確認することができる。解像度なんてことばを出してしまうと野暮なことになるので控えたいと思うが、とにかくマクロでありながらミクロというものすごい世界である。桜もまた見せ方がおもしろい。手前にピントの合わない花が大きく画面を覆い、その隙間から遠景の花びらや青空がちらりと覗くという構図である。それが実に見事な立体感を生み、あたかも人間の視線そのものであるかのように振る舞っている。
鈴木の写真は決定的瞬間を絡め取る性質のものではない。したがって一枚だけ取り出してもさしたる意味は持たない。複数の写真が穏やかに連動することである種の「状況」「時間」「空間」がにわかに立ち上がってくる。そういうものだ。7月に刊行されたホンマタカシの「New Waves」もこれに近いものであろう*3。もうこれ以上は実物を観ていただくしかない。10月21日まで。図録の出来も非常によい。
http://www.syabi.com/details/suzuki.html

*1:実際に多くの人が大なり小なり声をあげていた

*2:壁も天井も床も真っ白

*3:ハワイの波を延々と並べるのみ