居眠り注意危機一髪

かたみ歌 (新潮文庫)博多行きのN700系のぞみは最後尾の16号車まで満席だった。朱川湊人の『かたみ歌』(新潮文庫)を読みながら、西へ向かう。
『かたみ歌』は東京の下町にあるアカシア商店街で起きた不可思議な出来事を語る短編集である。7編はどれも独立した物語でありながら、古書店を軸にして時間を越えて有機的なつながりを持つ。小説の造りとしては、先日読んだ有川浩の『阪急電車』に似ている。直木賞受賞作*1と同じく異界、彼岸のことや死者との交歓などを描いており、両作には通底するものを強く感じた。楽しく読み切る。同じような人情ホラーでもあざとさが鼻につく浅田次郎とは何が違うのだろうと考えていたら、ついうつらうつらと……。目が覚めたらどこかの駅に止まっている。
  新大阪!!!!!!!!!!!!!!!!(驚愕!)
すでにこの駅からの乗客が乗り込んできている。このままだと岡山まで連れていかれる。大慌てで簡易テーブルの上に出していたもの*2を握りしめ、キャリーカートや鞄やコートを引っ掴んでダッシュする。手から滑り落ちた携帯を親切な女性が拾ってくれた。iPodも落ちる。もう大変な騒ぎである。もちろん騒いでいるのは私一人だけ。その間にも車掌が「間もなく発車します」なんて言いやがるから、ますます焦る。幸い16号車だったから、最後方のドア付近には誰もいなかった。あれが真ん中あたりの車両だったら、乗り込む乗客に阻まれて、降りることがかなわなかったかもしれない。
発車ギリギリ間際にホームに飛び出し、荷物をそのあたりに放り出す。やれやれ。コートを身に着け、携帯とiPodを鞄に収め、雑誌をキャリーカートにくくり付ける。空のペットボトルはゴミ箱に捨てる。で、何か足りないことにそこで気付く。ああ、朱川湊人が一人西へ旅立ったよ……。さようなら、『かたみ歌』*3、短いお付き合いでした、お元気で(涙)。
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N700系の充血した目/青空に映える雪の富士山/岸辺駅の夕暮れ/十六茶のおまけ

*1:『花まんま』

*2:携帯電話・iPod「文藝春秋」・空のペットボトル

*3:読了後、前の座席背面の網袋に入れていた