赤い文化住宅の初子

赤い文化住宅の初子 [DVD]公開中に必ず見に行こうと思っていたのに、雑事に紛れてすっかり忘れてしまっていた作品である。
父は失踪、母は過労死、頼みの綱の兄も勤勉からはほど遠いという絶望的な状況の中、強い諦観を覚えながらもやさぐれることなく生きる女子中学生を描く。思うにまかせないことばかりなのに、初子の矜持に絶対的なすがすがしさを感じる*1
不幸感を煽って泣かせようとするわけでもないし、なんらかの問題提起的な意図を持つものでもない。これはどこまでもファンタジーである。モチーフとして何度も登場する「赤毛のアン」をダークに解釈して見せるあたり、この映画のなんたるかをよく示していると思った。本当の幸せはみんな夢?
そしてそこから連動するように、兄妹の住む赤い文化住宅は「ヘンゼルとグレーテル」の「お菓子の家」ではないかと想像を逞しくする。母親(魔女)の残した家はまさにファンタジーの舞台として機能している。いささか問題を孕みながらも、結局は兄妹を守ってくれるおとぎの国の家。仕事嫌いで風俗好きな兄でもあやとりは一緒にしてくれるし、結婚を約束してくれる白馬の王子様もやってくる。底なしの不幸というわけではない。
ところが、物語の最後にこの家は帰って来た父親によって焼き払われてしまう。「お菓子の家」を失った二人は、大阪移住というリアルな現実を生きていくしかない。映画(ファンタジー)は大いなる苦みとともにいくばくかの甘みも感じさせながら、そこで終わることになる。なるほどね。
妙に心に引っかかる映画であった。こういう深読みのできる映画は嫌いではない。タナダユキ監督作品。次回作は蒼井優主演の「百万円と苦虫女」(今夏公開)である。
公式サイト http://www.hatsuko-movie.com/

*1:初子を演じる東亜優は目がとてもいい