ハーフェズ

久しぶりに酷いものを観た。イランを舞台にしたファンタジー映画である。もちろん作っている側はファンタジーだとは夢にも思っていないだろうが、観る側からはファンタジーとしか思えない。それも劣悪な。

禁断の恋に落ちる若い男女が、宗教上の理由から会うことを禁じられる。社会的な地位も名声も奪われた男は、その恋を忘れるために鏡を持って旅に出る。

ハーフェズ ペルシャの詩〈うた〉 [DVD]そういう映画である。
不如意な力によって引き裂かれる禁断の恋は「ロミオとジュリエット」だし、男の持つ鏡は仏教でいうところの如意宝珠*1を思い起こさせる。この鏡の誓願イスラム世界に存在するものではなく、この作品における独自の設定であるという。さらにその宝物に特別な力を授かるために主人公が下野して巡礼(修行と言い換えてもよい)するくだりは、日本の古代の話型の一つ「貴種流離譚」をはじめとして、世界中の英雄物語で見られるものである。はるか昔、ルーク・スカイウォーカーヨーダのもとで修行を積み、会得した強大なフォースで帝国を打ち破り、宇宙に平和をもたらしました……。嗚呼、やれやれ。
「ハーフェズ」はこうした要素をイスラムの風景、風習で丸め込んでできあがっている。主要人物の名前は実在するものを使うなどもしているという。ある種のリアリズムの追求と言えるだろうか。実在したものを虚構で読み替える、そこにこの作品の存在意義を認めることもできるかもしれない。しかし、どこまでいっても「いつかどこかで見た」ようなパーツを寄せ集めて一つにしてみましたという印象から逃れられない。そこだけはどうしようもない。
ハーフェズ(唱道者)の地位を授けられる男を演じる主演俳優は、ひとりイスラム風ではないキムタクみたいな髪型にしているのも違和感を感じさせる。なんで変なロン毛なのだろう。もし見所があるとすれば*2、日本から参加した麻生久美子の存在であるが、これもうまく機能しているとは言いがたい。麻生はイラン人とチベット人の間に生まれた娘として出演しているものの、彼女でなければならない理由はどこにも見つけられない。
潜水服は蝶の夢を見る」と続けて観たから、よけいに辛口になってしまったかも。ご容赦を。
  公式サイト http://www.bitters.co.jp/hafez/

*1:広辞苑』第六版によれば、「あらゆる願いを叶える不思議な珠」とある。

*2:お前にとっての見所だろうと言わないでもらいたい