サッド・ヴァケイション

サッドヴァケイション プレミアム・エディション [DVD]青山真治監督の北九州三部作の締めくくりになる。前作の「ユリイカ」の世評が極めて高く*1、昨年春に刊行された「AERAムック 日本の映画監督」の「21世紀の日本映画」でも見事に一位となっていた*2
「サッド・ヴァケイション」は「Helpless」「ユリイカ」の設定(場所や登場人物、事件)を受け継ぐ。いずれも人間の相対的な関係性、とりわけ親子関係の強く脆い繋がりを、対立の構図の中に落とし込んでいる。過去二作が主に父性を描こうとしていたところ、「サッド〜」では母性に焦点が絞られる。これに取りかかる前に過去の二作を見直したのであるが、三作目は手慣れた感じで興行のためのものとしてすっきり作られていると思った。それは良くもあり悪くもある。
たとえば「ユリイカ」は3時間半もの長尺で、まずそれだけで観客には不親切だろう。もちろん長時間を感じさせないほどの緊張感を持つ作品ではあるが、それとこれは別の問題である。また「Helpless」は暴力的なシーン*3が頻繁に描かれ、痛々しいこと、この上ない。「サッド〜」は常識的な時間に収まり、痛いシーンもずいぶん減り、しかも「偉大なる母性」がわかりやすく描かれている。たとえるならば、正露丸糖衣錠のようなものか。心に残るのは臭みや苦みだとしたら、この映画は少々物足りなく思う。ただ説明的な台詞、映像を安易に使わないという青山の演出は好ましく保たれており、こうした姿勢が失われない限り、これからも独特のポジションを占める良作を作り続けてくれるのではないかと期待する。ちょっと上から目線。
  公式サイト http://www.sadvacation.jp/

*1:第53回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞・エキュメニック賞、ベルギー王立フィルムアーカイブ・グランプリ受賞など

*2:2008年2月19日日記 http://d.hatena.ne.jp/morio0101/20080219

*3:殺人の場面も多数