浪華悲歌

morio01012010-02-01

溝口健二監督が撮影した1936年のふたつの作品「祇園の姉妹 [DVD]」「浪華悲歌 [DVD]」は、いずれも傑作の誉れが高いものである。両作とも主演は山田五十鈴である。
男をいいようにたぶらかす女が、最後に手痛いしっぺ返しを受ける。京都の芸妓と大阪の職業婦人の違いはあれ、「祇園の姉妹」と同じ結構である。女にはそうせざるをえない気の毒な事情があり、また下心を持って近づいてくる男どもの愚かさや嫌らしさはあるものの、ためらいなく一線を越えてしまうしなやかな強さにゾクゾクする魅力を感じる。
山田五十鈴*1」で蓮見重彦はこう述べている。

1930年代の溝口健二山田五十鈴のあいだには、この種の齟齬感はいっさい生じません。最盛期の映画作家と最盛期の女優とが、二度と起こりえない幸福な遭遇をそこで演じているとしかいえぬからです。その前の年に原駒子と共演した『マリヤのお雪』(1935)だって素晴らしいのですが、『浪華悲歌』と『祇園の姉妹』の2本は、かりにその直後に溝口が死んだとしても、それだけで世界映画史に残る傑作たりえていると思います。リアリズムという言葉では括りえない肉の存在感ともいうべきものが、画面にみなぎっているからです。

首肯すべきである。
と、もっともらしく語ったところで、右の写真。この細面の山田五十鈴がいきなり紅茶や整腸剤のCMを始めそうに思えて仕方がない。ああ、私には蒼井優がだぶって見える。「そこか!」という嬉しいご批判、甘んじて受け入れます。