生きる

生きる<普及版> [DVD]印象としてアクションっぽいものが多いと感じている黒澤明の作品の中にあって、よい意味で地味な映画で、それがとても好もしかった。
絵に描いたようなお役所仕事をする公務員が、やがて自らの死期を知ることをきっかけにして、血の通った生き方を求めるようになる。公務員の死後、通夜に集まった人々が口々に彼の人となりを語り始める。そのことばの集積が公務員という人物を象っていく。
かつて見た行定勲の「ひまわり」がこれと同じ方法論で作られていたことを思い出した。対象そのものを語るのではなく、間接的な印象を積み上げることで、いかようにも解釈できる現実を再構築していく。見るものも、与えられた情報によって右に左に振られ、一面的には捉えられない現実というものを知ることができる。とてもおもしろいと感じた。死んだ人間が志村喬(生きる)と麻生久美子(ひまわり)だから、好みで言えば、あ……。1952年の作品。