キック・アス

キック・アス DVDバットマンスパイダーマンのようなスーパーヒーローに憧れて、一般人が同じようなことをするとどうなるか。
  酷い目に遭います。痛いし、死にそうにもなる。
ただこの映画がそうしたリアルな痛みを伴う世界と手を結んでいる以上、ヒーローものの基盤となっている勧善懲悪という価値観で行動することにも、大きな社会的責任が生じることになる。すなわち、たとえ悪人とは言え、一方的に暴力的な方法をもってカタをつけることが許されるのかという、倫理的道徳的な問題から逃れることができない。善悪などはしょせん相対的な問題でしかない。とすると、主人公たちにどんな大義名分があったとしても、彼らのやったことは一種の大量虐殺として、立派に犯罪行為となるだろう。大江健三郎が「破壊者ウルトラマン」で提起した問題とも繋がっていく。単なるヒーローものをパロディ化したコメディ映画ではないだけに、そこがとても気になった。
しかし、これが世界の警察を自認する某大国のエゴイスティックな態度や行動を戯画化しているのだとしたら、どうだろう。この映画の中で主人公たちが囚われの身となって公開処刑されるシーンがネットで中継される。それを我が息子、友人とはつゆ知らず、父親やクラスメイトらはスナック菓子やファーストフードを食べながら、他人事のように楽しんでいる。テレビの中で戦争というイベントを見るという醜悪な行いと何ら変わるところはない。どちらも、本当は地続きであるはずの現実が、身の回りの狭い世界とそれ以外の自分に関係ない広大無辺な世界の二層に完全に乖離してしまっている。あえてこういう場面を入れているところから、いろいろなものを飲み込んで、この映画を作ったのだと思いたい。
まじめくさった調子で語った上記のことを忘れれば、娯楽作品としてよくできていると思う。快哉を叫びながら、喉に刺さった魚の小骨がちょっと気になる、そんな映画だった。復讐に燃える殺戮マシン、ヒットガールを演じた女の子が可愛らしかった。007のシリーズ初期作品のように、「動かなくなった人は死んでいる」というような牧歌的な演出はもうないだろうな。
  公式サイト http://www.kick-ass.jp/index.html

紫の髪にアイマスクをつけている少女がヒットガールです。