ロストロポーヴィチ 人生の祭典

青山ブックセンターからほど近いシアター・イメージフォーラムで、アレクサンドル・ソクーロフ監督の「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」を観る*1
事前に情報を仕入れずにでかけたのであるが、これは邦題がよくないと思った。なんとなれば、これはロストロポーヴィチのドキュメンタリーではなく、ましてや音楽映画でもなく、あくまでもロストロポーヴィチとヴィシネフスカヤの夫婦にまつわる物語であるからだ*2。この二人は音楽家として傑出した存在であるだけでなく、極めて政治的・歴史的な存在でもある*3。映画は二人との対談や仕事に打ち込む姿を中心にして、さらには結婚50周年記念パーティーでの映像などを織り交ぜながら、彼らの生身の人間としての側面に光を当てようとする。劇的な盛り上がりなどないが、深々とした奥行きを感じさせられた。動きがなく一所からじっと対象を凝視するカメラは、そのまま我々の目そのものとなる。遠慮のない視線の前に夫妻の人となりがさらけ出されている。無邪気でお茶目なロストロポーヴィチに対し、ヴィシネフスカヤの底のない孤独感のようなものが恐ろしかった。

*1:http://www.imageforum.co.jp/

*2:原題は二人の名前が併記される

*3:ソルジェニーツィンプロコフィエフショスタコーヴィチらとのことや、亡命、市民権剥奪などあれこれ