松ヶ根乱射事件

松ヶ根乱射事件 [DVD]タイトルはおどろおどろしいけれど、中身はペーソスあふれるコメディである。
冒頭のシーン、大きく広がる雪原に真っ赤なコートを着た女が仰向けに倒れている*1。「う、撃たれて死んでるのか」とドキドキしていると、登校途中の小学生が手袋を外した手で女の胸や股をまさぐっている。なんじゃこれ。いきなり脱力させられ、ここでシリアスな社会ドラマでないことを知る。山下敦弘監督*2が素直な球を投げ込むわけはないのだ。
雪に降り込められた街という限定された空間の中で、生真面目な人間を風変わりな人間たちが取り囲む悲喜劇を描く。街の人々のそれぞれが抱える不満や怒り、悲しみといった負のエネルギーが、巡り巡ってすべて主人公に注ぎ込まれていくことになる。さらに街の外からは厄災そのもののようなカップルまで入り込んできて、事態はますます混迷の度を増す。そして……。
絶望の淵で揺らめく不条理なおかしみ。新井浩文演じる警察官のだんだん壊れていく様子が、気の毒でやるせなくて、そしておかしい。この映画の基調となる地方特有の重苦しい閉塞感は、牧歌的で抜けのよい明るい田舎を描いた「天然コケッコー」と対照的である。そういう意味では両作は裏表をなす映画ということができるかもしれない。

*1:パッケージの写真参照

*2:ばかのハコ船」「リアリズムの宿」「リンダ・リンダ・リンダ」「天然コケッコー」など