イリヤ・カバコフを堪能する

morio01012008-03-16

初夏を思わせる日差しの日曜日の朝、ロデオ*1世田谷美術館*2@砧公園まで走らせる。ロデオ特有の「いつひっくりかえるかわからない」というスリリングな愉悦感がたまらない。ゆるゆるのろのろと走って、20分ほどで到着する。待ち合わせていたタコさん、クーシュカさんと美術館の入り口で合流し、中に入る。チケット売り場ではちょっとした罠*3
イリヤ・カバコフ『世界図鑑』−絵本と原画−*4」を観る。ロシアがソ連と呼ばれていた頃に挿絵画家として活躍していたカバコフの作品を集成する展覧会である。カバコフ自身が語るように「あらゆるものが国家の統制化にあったソ連」では「挿絵に描かれるものすべてがイデオロギー的に良質であるか」が問われていた。およそ創作活動とは対極にある不自由さであろう。しかし、カバコフの絵を見ていると、「挿絵画家という社会的役回り」に異を唱えるかのごとき毒を潜ませているように映る。一見、子供向け絵本の挿絵らしく、色使いが優しくて美しい。ささくれだったおっさんの心にもしみじみと染みてくるものだ。しかし、絵柄をよく見ると……。

  • 何が楽しいのか、妙にはしゃいでいるポーズの人々あまた(一部人以外もあり)
  • 「あんた,リサーチなしやろ」というような独創的すぎる生物のフォルム
  • いい味わいの猫がそこここに登場
  • きっと性根が腐っているであろう、邪悪な目をしたキャラがいっぱい
  • もろステレオタイプな人種観
  • 絵ではないけれど、意味不明の物語が多い*5

脱力感満点である。共産主義イデオロギーを視覚化しているとはとても思えないものが多すぎる。それが楽しいから、どんどん絵を深読みする罠にはまる。見れば見るほど、どの絵にも騙し討ちやトラップがあるような気がしてくるのである。入り口から出口まで罠だらけの世田谷美術館である。気がつけば2時間近くが過ぎ去っていた。ろくにカバコフのことも知らずに見に行ったわけであるが、もうすっかりいっぱしのカバコフ通になった気でいる。今日のお気に入りキャラは、能天気にラッパを吹きまくる太陽小僧と青い王冠の王子(天然ガスの化身)と秋刀魚のような鯨の三つである。
ショップでは図録と絵はがきなどを買い求める。たいへん立派な図録だが、絵本を取り込むのではなく、カバコフの原画を掲載してほしかった。大きなポスターもあればほしかった。
■タコ壺「イリヤ・カバコフ展@世田谷美術館」 http://taco.jugem.cc/?eid=1043

*1:「ロデオって何?」な方のために http://homepage1.nifty.com/pekopokonet/noru/rodeo/rodeotop.html

*2:世田谷美術館  http://www.setagayaartmuseum.or.jp/

*3:割引制度を巡る罠

*4:イリヤ・カバコフ『世界図鑑』 http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

*5:例:冒険と称し、隣の家の子供の靴を夜中に修理する少年。どこが冒険?