転々

借金の回収屋が取り立てられる立場の大学生と東京を散歩するロードムービーである。悪ふざけが過ぎると、物語の主筋とは無関係のお遊び要素ばかりが目立つことになる三木聡であるが、この映画ではオダギリジョーと三浦友和の二人が力強く物語を領導するため、滔々と流れ行く進行にいささかのぶれもない。素直に二人に感情移入しながら楽しめた*1。
借金取りと大学生の正体、さらには二人の関係、そして散歩の真の目的は何かなど、いくつかの重要な謎も物語への求心力を強くさせている。井の頭公園から霞ヶ関を目指す散歩はそれらの謎解きの道程となり、変化に富む魅力的な東京の風景ともあいまって、最後まで飽きることなく付き合うことができた。それにしても出てくる風景のいくばくかを確実に言い当てられるようになった自分に驚く。さすがに東京暮らし*2も４年目に入ったら、それなりに経験値が蓄えられてきたのであろう。たぶん。閑話休題。
散歩することが映画の大半を占めるため、歩いたり走ったりする時の移動速度の変化が、彼らの感情の揺曳そのものとなっている。つまり彼らの足取りを見れば、心持ちが見えてくるという塩梅である。また小道具の使い方もよく考えられている。何気なく登場するものが、後につながる重大な伏線となっているから、まったく油断はできない。
三浦友和はほんとにユニークな役者になったと思う。もはや「山口百恵の旦那」という呼び方を忘れてもよいのではないだろうか。岩松了、ふせえりなどの「時効警察」の面々は、あいかわらずの芸達者なところを見せていた。麻生久美子も「あの役」でほんの少しだけ出てくる。ありがたや。
公式サイト　http://tokyosanpo.jp/indexp.html

*1:とはいえ、三木流の小ネタが合わない人もいるはず

*2:偽世田谷区民だけど