0系新幹線と植田正治

この旅行は、11月30日に営業運転を終了する0系新幹線*1にどうしても乗りたい*2というのがまずあって、これを使って行けるところを考えた。ちょうど鳥取と島根に見てみたいところがあったので、岡山まで0系で行き、そこから伯備線で山陰方面に抜けることにする。0系の指定券はいつものエクスプレス予約で簡単に取れた。
すでに朝の2編成しかないためか、ホームは写真を撮る人でかなり混み合っている。11月に入ったら、全国の鉄道ファンが集結して、ものすごいことになるのだろう。なにしろ鉄道界のスーパースター、鉄道遺産であるから。私はと言えば、特に0系に懐かしい思い出があるということはなくて、むしろ東京単身赴任生活を始めてからよく乗った500系の方が思い入れが深い。しかし、この機会を逃すと、もう0系には永遠に乗れないとなるとね。
R0010921 R0010935
岡山まで1時間半もかけてのんびり走る0系。前日の大雨で東海道区間のダイヤが大きく乱れており、この日もその影響を受けて、追い抜かされるのぞみを駅ごとで待ちながら、さらにのんびり走っていた。黄ばみが激しいプラスチック部分やなんとなくただよってくる紫煙の香り(たぶん車両に染み付いている)、トイレのすえた臭いに40年の年月を感じる。まぁ、確かにこれでは引退だろう。0系のあとの山陽区間のこだまは500系になるらしい。あれだけの高性能なのにもったいないと思う。こちらも乗れる時に乗っておきたい。
伯備線の岸本で下車し、そこからは自転車である。駅から3キロほどで植田正治写真美術館*3に行き着くのであるが、事前に調べた地図ではわからないことがひとつあった。それは、ずっと登り!*4 大山に向かって、ひたすら登る。「なんで最初から」とつぶやきながらペダルを漕いだが、結果的にこの旅行中まともに自転車に乗ったという実感を得られたのは、この区間だけだった。嗚呼。
汗だくになって到着した植田正治写真美術館は、すばらしく広大な風景の中にあった。目の前に大山があり、それと向き合うようにコンクリートの無機質な建物が建っている。これは同じ建物を東京や大阪に建てたとしても絶対にダメだろう。この場所でないといけないという必然性を強く感じた。さらに落ち着いた館内の空気が集中力をもって写真を鑑賞させる。そのようにさせる場所の持つ力みたいなものがある。これだけの静謐な空間はなかなかあるものではない。世界最大級のカメラ・オブスキュラの装置もすばらしい。さほど広くない館内に2時間ほど幸せな気分を噛み締めながら留まっていた。
R0010956 R0010959
外に出て針穴写真を撮り始めた頃から、すこし雨が落ちてくる。まだ青空の面積が大きかったので、大丈夫だろうと判断し、一路松江を目指すことにする。しかし、米子まで来たところでどうにもならないほどの豪雨となる。なんで? 急いでtikitを駅に向かわせ、あっさり電車の人になった。幸い松江に着く頃には雨も上がり、西の空は夕焼けも期待できそうな感じになっていた。
島根県立美術館*5のある宍道湖のほとりで音楽を聴き、本を読みながら、夕陽を待った*6。最高、とは言いがたいけれど、それなりの夕陽を針穴カメラに収めて、その日の宿に向かった。空の端に見えていた真っ黒な雲は翌日の雨模様を確かに暗示していた。

*1:0系新幹線 http://www.jr-odekake.net/navi/shinkansen/0kei/

*2:いわゆる鉄ではないけれど、新幹線だけは大好き

*3:植田正治写真美術館  http://www.japro.com/ueda/

*4:距離が短くて助かった

*5:島根県立美術館 http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/sam/

*6:写真のうさぎはあの「せんとくん」の作者の手になるもの。頭から角は生えていません。