ハッピーフライト

ハッピーフライト飛行機は乗る前と後の時間が意外にかかるのと、座席がとにかく窮屈なのが嫌で、東京と大阪の行き来ではもっぱら新幹線を利用する。単身赴任の身となって初めて東京に向かった時に機上の人になったが*1、後にも先にも、三年半でその一度きりである*2。乗り物としての飛行機は、どこまでも自分の生活、関心の埒外のものであった。
矢口史靖監督の4年ぶりの新作は、限られた空間と時間の中で進行するグランドホテル形式の群像劇である。その舞台に選ばれたのがジャンボジェット機であった。以下、ネタバレはなし。
パイロット、キャビンアテンダントはもとより、地上勤務のグランドスタッフ、整備士、管制官などから鳥払い(通称バードさん)まで、およそ飛行機に関わっているであろう職業のそれぞれに、きちんとしたドラマを盛り込んでいる。へたをすると空中分解*3してしまいそうなほどのエピソードが居並んでいるのだが、それらをいい塩梅でさばき、散漫になることなく、一つの物語としてまとめあげているのはさすがである。それでいて三谷幸喜的な「すべてをプロとして手際よくまとめまてみました」というような味気なさはない。なんとなく泥臭さが残っていることも矢口監督の持ち味であると思う。
けだし主人公以外に要人を配したことが奏効したのだろう。群像娯楽劇として興行的に成功を収めた「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」での経験がしっかり生かされているようだ。しかも矢口監督お得意の小ネタ*4までしっかり仕込まれているから、くすくす笑ったり*5、ほろりとしたり、とにかく忙しい。もちろんこれは褒め言葉である。
俳優やセットの豪華さでメジャー感を出すことはせず、あくまでも物語の面白さ、構成の巧みさで見せようとしているところは、たいへん好ましい。細部の描写に大雑把なところもないようだ。俳優はそれぞれ分をわきまえた熱演をしているが、中でも時任三郎寺島しのぶ田畑智子肘井美佳江口のりこ岸部一徳あたりが印象的だった*6。これほど多幸感に包まれる飛行機パニック映画も珍しいのではなかろうか。たぶん一度では気がつかない隠しネタがあるはずだから、また見たいと思う。渋東シネタワーで鑑賞。
公式サイト http://www.happyflight.jp/index.html

*1:http://d.hatena.ne.jp/morio0101/20050401

*2:東京以外だと、北海道、福岡、ベネチアの各地へ飛んだ

*3:飛行機ものには禁句か

*4:飛行機オタク向けとおぼしきマニアックなものまで

*5:正露丸

*6:綾瀬はるかは「普通に」よかった