正体不明のばったり倒れ屋

チェブラーシカ [DVD]吉本隆明椎名林檎アンドリュー・カーネギージョー・ディマジオが生を受け、三島由紀夫や第21代木村庄之助がこの世を去った日、クーベルタン男爵はソルボンヌ大学での講演でオリンピックの復活を提唱した。福沢諭吉は『学問のすゝめ』の最終刊を刊行し、東京では全国初の「愚連隊防止条例」が施行された。テレビを押し売りするようなハイビジョンの日でもあるらしい。
そういうささやかな記念の日にひっかかる自分へのご褒美として、チェブラーシカ*1を寓居に招く。これまでにも版権が移動する度に幾種類かの映像商品が発売されていたようだが、今月登場したものはディズニーとジブリが関与したデジタルリマスター版である。ただしオリジナルは旧ソ連時代の70年代の作品であるため、大雑把な画質が劇的に改善されているわけではない。しかし、チェブラーシカはそのザラリとした感触こそが持ち味であろう。ピカピカツルツルではむしろ味気ない。
自らを「正体不明の生き物」と称し、なんだかいつも自信なさそうにするチェブラーシカは、年がら年中能天気にはしゃぎ回る自意識過剰な米国産のネズミやアヒルに追いつくために作られたはずなのに、全編を通じてシニカルかつブラックなユーモアが横溢し、ちっとも「娯楽」していないところがすごい。ワニのゲーナの抜けたところやシャバクリャクばあさん(元スパイって……)の意地悪なところもよい味わいである。
それにしてもどんなに楽しい場面でもあの独特のロシア音楽が流れると、どうにもこうにも物哀しい感じに包まれる。まるでパルナスのCMのように。もちろんチェブラーシカにはそれがよく似合っている。