山口晃を大山崎山荘で観る
ロケーションが抜群にいいアサヒビール大山崎山荘美術館*1で、山口晃が関西では初となる個展*2を開いているとあっては、見逃すわけにはいかない。浜松から大阪の自宅に戻る途中に立ち寄ることにした。
年内の公開は今日が最終日であったが、混み合うこともなく、もったいないくらい思う存分に鑑賞できた。おそらく東京あたりで同じ個展が開かれれば、まず観客が途絶えることはないだろう。しかもこの美術館は大正から昭和初期にかけて作られた英国チューダー様式の別荘*3で、絵に負けないくらいの芸術的な価値を持っている。その空間に山口の絵がさりげなく飾られているのだからたまらない*4。
初公開となる山口版洛中洛外図「邸内見立 洛中洛外圖」や大山崎の交通網を鳥瞰図スタイルで描く「大山崎交通乃圖」をはじめとして、戦国から江戸初期に歴史的要地となった大山崎(天王山)に着想を得た新作絵画が居並ぶ。山口お得意の過去と現代あるいは未来の融合した見立てがおもしろく見飽きることがない。細部の描き込みがこだわりという一言ですませられないほど緻密に行われているため、部分部分を読み解くのが楽しくて仕方がない。
安藤忠雄の手になる新館*5にはさらにおもしろい仕掛けがあった。ここには常設のモネの「睡蓮」があり、それとコラボレーションするかのように山口の作品が並べられている。しかし、山口の作品はと言えば、コンクリート打ちっぱなしの壁の染みやひび割れを何かに見立てて、そこに真四角なスポットライトを当てるという大胆なものなのである。いわば山口の視点と発想だけが生の形で投げ出されている。あろうことか、モネの作品「睡蓮」を睡蓮と見立て(そのまま!)、「日本庭園の太鼓橋」を瀬田の唐橋と見立てる遊びまで披露している。けだし知的遊戯とはまさにこのようなものなのであろう。