巨大な煙突を見に行く

昨夜、一息に読み終えた本谷有希子の『あの子の考えることは変』(講談社)にこんなくだりがあった。

少なくともここまでスケールのでかい煙突を、わたしは他に知らない。清掃工場はいままでだってどこかしらで目にしてはいるんだろうけど、どれも景色に溶け込んで、ここに越してくるまでその存在をピンポイントで意識したことがなかったのだ。焦点を定めてみると、なんでこんなものをあっさり受け入れられていたんだろうと不思議になるくらい、煙突のどでかさは半端じゃない。行ったことないけど万里の長城とか、岡本太郎太陽の塔とか、ああいう建造物を前にした時の感覚に似ているんじゃないだろうか。

R0012285主人公は巨大煙突の見える部屋に友人と暮らしている。そして同居人はいつかこの煙突の吐き出すダイオキシンが革命的な世の中を作る引き金になると信じている。煙突はまるで「リトル・ピープル@『1Q84』」のように二人の生活に決定的な影響力を及ぼし、それはもはや抗えぬ制度である。と、ハルキにひっかけてみたが、とにかくおもしろい小説だった。二人のめくるめく濃厚な妄想が愉快痛快で、この際、筋や展開なんてどうでもいい。
小説に登場する煙突は高井戸にある杉並清掃工場のものである。世田谷の寓居から約10km、万里の長城太陽の塔に比べられる煙突なら一見の価値はあるだろう。迷わず行けよ、行けばわかるさ。*1
夕方、少し涼しくなってからポケロケに乗ってでかける。世田谷線に沿って下高井戸まで行き、甲州街道を越えたところにある神田川に沿って西進すると、ほどなく目的地に到着する。近づくにつれて、視界の中でぐんぐん白い煙突は巨大化していく。初めて行く場所なのに絶対に迷うことがない。迷いようがない。そして到着。
  くはぁ、禍々しいまでにでかい……。
そこだけスケール感がおかしいような、空間が歪んでいるかのような感覚がある。
それにしても、である。この清掃工場(=ごみ焼却場)は驚くべきことに住宅密集地のど真ん中にある。しかも一日中渋滞の酷い環状8号が間近にある。住環境としてはどうなのだろう。この地に建てられたことについては東京のごみ処理問題が深く関係しているらしいが、なるほどこういうことをするなら、お台場に原発をというのもわからなくはない、か? ちなみにこの煙突は160m*2で東京の清掃工場のものでは三番目の高さらしい*3。最も高いのは豊島清掃工場の煙突で210mもある。二番目は晴海の中央清掃工場の180m。ただどちらも杉並と決定的に違うのは、立地する場所が住宅地ではないということだろう。
本谷の言う「地球に突き刺さっているピンみたい」な煙突を、しばらくの間、惚けたように眺め続けた。その後、巨大なものシリーズとして、芦花公園西側にあるガスタンク群*4も見物してきた。これもなかなかのものだった*5
そこまで出かけたついでに、以前から行ってみたかった芦花公園駅近くのアイバンラーメン*6で夕食を摂った。おいしゅうございました。