来来来来来

morio01012009-08-04

やっと取れた「劇団、本谷有希子*1」のチケットを大事に握りしめて*2、下北沢の本多劇場*3に赴く。本谷の小説や映画や舞台のDVDはさんざん読んだり見たりしてきたけれど、ついに念願がかない、初の生鑑賞である。
女性六名だけで演じられる物語は、少々奇妙な性癖を抱える偏執狂な人物たちがそれぞれの自我を賭けて全力でぶつかり合うものだった。自意識過剰となった女性が裏表を使い分け、あるいは使い分けられなくなって、どこにも悪意はないのに事態だけが絶望的な方向に突き進んでいく。いつもの本谷節が全開である。巻き込むはずの者がやがて別の者に巻き込まれていく。彼と我の強弱は常に相対的で臨時的なものであることが、これでもかというほど繰り返され、六人の関係性は大げさに言えば世界の縮図でもある。
劇場内は三〇代から四〇代が大半とおぼしく、居心地がよかった。固定席以外にパイプ椅子もずらりと並ぶ大盛況である。演劇ならではのちりちりした空気感がたまらない。
「続きを読む」の後にあらすじを記しておいた。
【公式サイトに掲載されているあらすじ】

山間の小さな集落。蓉子は、この町の麩焼き場で麩を揚げて働く、新婚ほやほやの奥さんである。嫁ぎ先の夏目家には鳥を溺愛するあまり、自作の鳥園を作っては近所の子供から入園料を取る、商魂たくましい義母と、長男の嫁がいた。麩揚げ場には村の女達も働きに来ている。蓉子も馴染みつつあったそんなある日、新婚一ヶ月で夫は突然、失踪してしまう。
山に捜索隊も出たが見つからず、村では義母の面倒をみる嫁を身代わりにして失踪した、と噂が広まる。東京から嫁いできた蓉子に、親切とお節介で「あんたも出て行ったほうがいい」と忠告してくれる者もいたが、蓉子はきっぱり噂を退け、旦那を信じて待っている。
旦那がいなくなってからも、義母は使い勝手のいい蓉子を手放そうとはしない。働き者の蓉子は義母に命じられ、鳥を世話し、食事の支度をし、麩を揚げ続ける。
鳥の世話をして旦那を待ち続ける蓉子の夢は、鳥園のつがいの孔雀がいつか羽を広げるところをみることだった。前に一度だけ羽を広げたところを夫と眺めたことがあり、その時が幸せだと感じたのだ。思い出を心の宝物にしながら、彼女は慎ましくせっせと暮らしていた……。