アヒルと牛若丸と青不動

morio01012009-10-18

【その1 アヒルを受け取る】
水都大阪2009*1のアイドルだった巨大なアヒル。約1ヶ月間、天神橋のほとりにぷかぷかとユーモラスに浮いていた。そのレプリカが1500個限定で販売されていた。下調べをろくにせず*2、見事に買い逃してしまったのであるが、このアヒルにぞっこんであった針穴写真仲間のtearoomさん*3が一体譲ってくださるという。僥倖。折しもしきはんさんが京都にやってくるので、二人が待ち合わせているところに無理矢理合流し、シリアルナンバー1020番のアヒルを受け取った。今日の寺巡りの相棒となる。
【その2 牛若丸と毘沙門天
出町柳から叡山電車に揺られる。車中は日曜ハイキングに出かける中高年グループで通勤電車並みの混雑となり、実に騒がしい。なんなのだろうか、あれは。いい加減うんざりする頃、終点の鞍馬駅に到着する。天狗様のご加護だろう。険しい階段を上り、ケーブルカーで山上に出る。
鞍馬寺では、国宝の毘沙門天立像を見ることと、牛若丸の手ぬぐいを買い求めることが目的である。本堂からさらに高いところにある霊宝殿を目指して、ひたすら登る。バリアフリーという言葉はこの山寺の辞書にはない。
霊宝殿の3階に仏像は安置されている。階段*4を上っていくと、なにやら不揃いな読経が聞こえてくる。見れば、信心深い人々約20名が聖観音菩薩立像の前に陣取って、一心不乱にお経を唱えている。「かっこいい」とか「美しい」とか「しびれる」とか、まったく異なった価値観で仏像を鑑賞する者にはたいへん居心地が悪い。でもしっかり見る。うろちょろする私は彼らに胡散臭い目で見られた。
さて居並ぶ毘沙門軍団に交じって、大杉大権現というご神木も祀られている。この大杉は樹齢千年の神木であったのだが、1950年の台風で折れてしまったという。それをここに安置しているのだ。鞍馬寺のあるこの山は「いまから六百五十万年もの昔、金星から魔王尊が降臨された」地であるという*5。ゆえにそこに生える樹木も神となる。何を信じるかという次元の話はここでは無益である。現実を受け入れ、手を合わせてきた。牛若丸手ぬぐいも無事に入手する。
【その3 青不動と対面】
東山の青蓮院*6には青不動明王を描いた平安時代仏画がある。日本三大不動の一つと言われる*7。普段は固く秘匿され、一般に公開されることがない。なにしろ数度の展覧会への貸し出し以外は、平安時代から一度も開かれたことがないのである。それがこの秋、初めてご開帳となった。見に行くしかない。おそらくもう二度と本物は見られない。
夕方に近い時間だし、混んでいることはないだろうと高を括っていたところ、建物の内も外も観光客でごった返している。名高い庭園も人だらけ。厳かな気分がまったくない状態で、青不動と対面する。不動明王の青い体躯とその廻りに逆巻く紅蓮の炎が実に生々しく迫ってくる。ほぼ同時期に成立したと考えられる源氏物語絵巻などより、断然鮮やかな印象を伝えている。信仰の対象の仏画と一般向けの物語絵との違いと言ってしまえばそれまでであるが、保管状態の差がこれほどまでに形として現れるのだなと感じ入った。まわりの喧噪はすっかり忘れ、すうっと絵に引き込まれてしまった。
【その4 おまけ】
知恩院、八坂神社も駆け足で巡った。どちらも観光客で賑わう。賑わいすぎるくらい。紅葉の時期はえらいことになるのだろう。
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上:青蓮院の楠/下:知恩院の空

*1:http://www.suito-osaka2009.jp/

*2:現物はしっかり見てきた

*3:http://www.flickr.com/photos/tearoom/

*4:電気箱も電気階段もなし

*5:パンフレットより

*6:http://www.shorenin.com/

*7:もちろん国宝