浮雲

浮雲 [DVD]きちんと観ていない古い邦画を知りたいと思い、手始めに名作の誉れが高い成瀬巳喜男の「浮雲」を観た。1955年の作品である。
高峰秀子の顔を見ながら、原節子のことを思い出し、当時はああいう鼻筋の通りすぎたような顔が好まれていたのか、私の嗜好とはずいぶん違うななどと、どうでもいいことを考えながら画面を睨む。さほど魅力があるとは思えない優柔不断で煮え切らない男に、ヒロインはじめ多くの女が、なぜか次々にひっかかっていくという物語である。林芙美子の同名小説を原作とする。
かの小津安二郎が自分にはこういう映画は撮れないと激賞したらしいが、確かに小津映画とはまったく趣が異なる。全編を通じておどろおどろしいやるせなさが横溢し、なんともやりきれない気分になる。こんなにすかっとしない映画もないだろう。もちろんこれは褒め言葉である。
近頃の映画とは違うおもしろさがあるように思う。観たくなるような新作のない折はせっせと古いものを探索してみたい。