残菊物語

残菊物語 [DVD]見事なまでにメロドラマである。
歌舞伎役者が奉公人と恋に落ち、やがて身分違いであることを理由に引き裂かれたあげく、家を飛び出してしまう。旅芸人にまで身をやつすものの、契りを結んだかつての奉公人の献身的な支えによって、再び表舞台に返り咲く。しかし、その時、妻は死の淵に沈んでいくのだった。
ワンシーンワンカット長回しで、カメラは常に役者たちから一定の距離を保って淡々と語るように描く。全編においてむやみなカットの切り替えや表情のアップが使われることがない。それはあたかも劇中世界を離れたところから覗き見るような趣である。泣かせるようなあざとい演出はまったくないのに、どんどん感情が煽られて、切なくて哀しくて仕方がなくなる。今時の低俗な演出過多の自称「泣ける映画*1」に爪の垢を煎じて飲ませたい。
二代目尾上菊之助を演じる花柳章太郎とお徳役の森赫子がすばらしい。「男をどこまでも支える女」という旧時代の価値観は、時代の制約、風俗の一つとして見ることにし*2、人が人を心から思う物語として捉えたい。
1939年、溝口健二監督作品。

*1:臭い台詞、泣き顔アップ、喧しい音楽など

*2:今も残る古くさい道徳観、倫理観と一戦交えるのはまた別の話