稲妻

稲妻 [DVD]父親がみな違う四人の兄姉妹の物語である。少子化の今では考えにくい設定であるが、当時はこれをどう受け止めていたのだろか、などということは、きっとどうでもよい。成瀬巳喜男の代表作として評価されている「浮雲」より、この「稲妻」の方にずっと引き込まれた。
独身の末の娘と結婚した長女、次女、さらに戦地帰りの長男のそれぞれの生き方や価値観がまるで違う。そこに4人の夫の子どもを育てる母が絡む。剥き出しの感情と思惑が交錯し、この家内に波風の立たない日はない。心を配っている、労っていると思いきや、陥れるのだからたまったものではない。表向きは仲良く寄り合う家族が、実はそれぞれ勝手な方向を向いているという悲喜劇が展開する。
何かと理由をつけて働かないニートな長男は時代を半世紀先取りしている。三女の縁談相手にと連れてきた男と長女、次女ができてしまう。母親は「しょうがないじゃない」と繰り返すばかり。まったくすごい一家であるが、なぜか後味の悪さはない。そのさじ加減がこの映画の見所であろうか。
ややこしい実家を逃れて世田谷で一人暮らしを始めた妹のもとを訪れた姉は、「緑の色が違う」と漏らす。下町暮らしに慣れた人から見ると、世田谷ってやっぱり田舎?
1952年。成瀬巳喜男監督。