山椒大夫

山椒大夫 [DVD]安寿と厨子王の物語として知られるこの作品は森鴎外の小説でもおなじみのものであろう。溝口健二監督の作品で1954年に公開された。
人道主義者であった父の思い描く理想がなすすべもなく現実に敗れ去り、一家離散の憂き目を見る。幼かった長男はやがて成長して大いなる力を得、過酷な運命を与えた者どもに合法的に強烈な裁きを下す。典型的な貴種流離譚の枠組みを持つと言える。
戦前の傑作「浪華悲歌」「祇園の姉妹」などに比べると、生の感情の表出よりもストーリーを語るのに忙しいように見える。善し悪しではなく、映画の作りという点で両者はまったく別物である。実際に映像の美しさや世界観の構築について、海外の評価は極めて高く、ベネチア国際映画祭では銀賞を獲得してもいる。
溝口の名を世界に知らしめた名作であるのは確かであろう、と何のまとめにもなっていないことばで結ぶのは、きっとこの映画に対してあまり思い入れを持っていないから……。私は山田五十鈴の出てくる溝口映画が好きです。