風の歌を聴け

風の歌を聴け [DVD]村上春樹のデビュー作を同郷の大森一樹が映画化した。1981年の作品。
原作は神戸、芦屋、西宮あたりが舞台になっていて、撮影地も同じ阪神地区なのだけれど、役者が皆、標準語を話すものだから、どこの話かよくわからない無国籍で不思議な気配の映画になっている。きっと変な関西弁を話されて台無しになるよりはよいと判断したのだろう。あるいは吉本化を避けるとか。もっとも原作でも関西臭さはほとんど感じられない。
印象的なエピソードを断片的に提示し隙間はすべて享受者に委ねるという村上のやり口に対し、大森は時系列に整理した断片をやや青臭い映像にまとめあげて一本とした。結果、原作と映画は相当印象の異なるものになった。どちらがいいとか悪いとかではなく、違ったものになった。それだけである。いかにもATGでアート志向、大森の映画には当時の気配が拭いがたくまとわりついている。
「僕」とか「鼠」「小指のない女」「J's Bar」あたりのキーワードで、時折自分の観ているものが村上春樹に関係していることを思い出す。若い室井滋がこんなところで「体当たりの演技」をしているなんて。年末公開の「ノルウェイの森」ははたしてどういう映画になっているのだろうか。観たいような観たくないような。