長島有里枝の話を聴く

SWISS青山ブックセンター長島有里枝寄藤文平トークショーを聴いてきた。
  http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_201010/swiss_mswiss1016.html
長島とともに第26回(2000年度)の木村伊兵衛写真賞を同時受賞した蜷川実花は、高名な舞台演出家の父親を持つこともあってか、早くから各種メディアを賑わせる人であった。もちろん本人の資質、性格も大きい。一方の長島は、蜷川より作品を発表する機会が少なく、写真集も数えるほどしかない。もちろん本人がメディアに露出することなどめったにない。圧倒的に一般受けする蜷川の派手な写真*1に対し、長島のそれはスナップ、風景、ヌード、ポートレイト、どれを取っても派手さはなく、しかし、抜き差しならない硬質の緊張感が漂っている。さらっと嚥下することができないのだ。そこにある違和感のことをいつまでも考えてしまう、そんな写真を見せてくれる。
新作の『SWISS』(赤赤舎)はスイスにある芸術家達の集うゲストハウスで過ごした三週間の写真を収める。長島は亡くなった祖母の残したなんでもない花の写真にインスパイアされ、このゲストハウス周辺の植物を中心にありふれた風景を撮り溜めたという。この写真集の装丁がとてもおもしろい。まず帆布に包まれた表紙は20色ものバリエーションがある。なんでも色によって生産数がまったく違うそうだ。これはコストを抑えるために端布を集めたという事情による。また中は遊び紙をたくさん使い、紙質も手触りにこだわったものを選んだという。文章のある頁*2はトレーシングペーパーのような透ける紙で、文字が重層的に浮かび上がる。
いずれにしても丁寧に手間暇かけて作り込んだというのが誰の目にもはっきりわかるほどのものになっている。祖母への強い思いを感じさせる写真ともあいまって、誰か(いや、自分か)のアルバムを懐かしく見る思いがする。まさしく電子書籍では得られない満足感がある。この装丁を手がけたのが、トークショーの相手を務めた寄藤文平である。気心の知れた武蔵野美術大学の同窓生の連携のよさを強調していたけれど、確かにそういうものがあるかもしれない。
長島の言った「どこで撮った、何で撮った、何を撮ったというのをいちいち語るのはとても格好が悪い、私はこういうことを考えている、感じているということだけが伝わる写真を撮りたい」ということばを、しみじみと噛み締める思いで聴いていた。

*1:色も被写体も

*2:長島の文章がまたいいんだなぁ