その妹

morio01012011-12-29

明治から大正の頃の「日本人」を描く。ことさら「日本人」としたのは、他者との相対的な距離感や社会における存在意義を模索する登場人物の姿に、個を超えた類型を感じたからである。絶滅間際の恐竜のごとき華族の思考や行動、夢見がちな世界に居ながら権力を手放そうとしない古臭い価値観に生きる男ども、理解や共感は難しいけれど、きっとそうだったのだろうと思わせる手応えを感じる。
それゆえ、じりじりとした思いを抱えながら、ひとり自らの意思で己の進む道を選び取ろうとする蒼井優演じるヒロインの毅然とした生き方が際立ってくる。たとえそれが当人にとって幸福とはとても言えない状況であっても。また華族の妻や女中、小間使いたちの内に秘めた思いの強さとそこから導き出される生き方にも、ヒロインと同じ気高さを感じた。
どうやら社会的には男どもの気紛れな権力に振り回される女性の強さというものを描こうとしてるとおぼしい。そしてその試みはひとまず成功していると思う。ひたすら台詞が積み上げることに忙しい演劇で、必ずしも見やすいものではない。テーマ自体も重く切ない。しかし、ひとたび舞台の緊迫感に絡め取られると、あとは最後まで一息に見せきる魅力があった。
運良く手に入れた当日券は、驚くことに最前列のものだった。トラムシアター自体が小さい劇場で、後方でも舞台との距離はさほどでもないのだけれど、目の前5メートルの距離で、蒼井優が2時間半居続けるというのは「眼福俺得」以外のなにものでもない。武者小路実篤原作、河原雅彦演出。蒼井優市川亀治郎段田安則ほか。三軒茶屋トラムシアターで鑑賞。