野口里佳「マラブ・太陽」

morio01012007-11-09

野口里佳がピンホール写真を撮っているということを何かの雑誌で読み、ぜひともこの目で実物を見たいと願っていた。今月、銀座のギャラリー小柳で開かれる日本での三年ぶりの個展が、まさにそのピンホール写真を披露するものであることを知り、狂喜乱舞する。
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Gallery KOYANAGI
薄暗い会場内になんだかよくわからない白い鳥がたたずむピンホール写真がぐるりと張り巡らされている。鳥の名はマラブといい、緑豊かなベルリンの動物園で撮影されたという。なんでもマラブはほとんど動かない鳥らしく、そういう意味では長時間露光を余儀なくされるピンホール写真の被写体にはもってこいであるが、もちろんそんなつまらない理由で野口はこの鳥を選んでいるのではないだろう。
  非決定的瞬間。
そこにあるのはアンリ・カルティエ・ブレッソン流の「決定的瞬間」を切り取った写真ではない。どこで始まりどこで終わってもいい穏やかな時間の流れの中で、じんわりと揺らぎ滲むマラブの白い体はまるで光を放っているかのようであり、存在感はいや増していく。確固たる生命感を得たマラブの姿に我々は重層的な厚みのある時間の流れを感じ取り、確かに彼*1が生きて存在していることを思い知ることになる。こうした感覚は先般の鈴木理策の写真展*2ホンマタカシの新作写真集*3でも感じたものである。大和絵の「異時同図」のように複数の時間を一枚(または連続する数枚)の中に封じ込め、一瞬でありながら、あたかも永遠であるかのごとき空間を現出させる。
鵜の目鷹の目で絶好の瞬間を探すようなことはしばし忘れ、自らの生きる平凡で大切な時空間を一枚に絡めとる。技量もセンスも遥かに及ばない私ではあるが、野口の写真とじっと向き合いながら、そんなことが続けられたらいいなとぼんやりと思っていた。気障。11月30日まで*4

*1:彼女かもしれないが

*2:「熊野 雪 桜」(東京都写真美術館

*3:『NEW WAVES』(パルコ出版

*4:同時に展示されていた「太陽」(太陽をまっすぐピンホールカメラで捉える)と「白い世界」(一種のインスタレーション)も素敵であった