逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ 21歳の夏 [DVD]絲山秋子の原作の肌合いを損なわず、さらに会話のテンポの良さと車の疾走感が心地よく、まずは佳作と言ってよい映画だと思う。
若い男女二人が福岡の精神病院を抜け出し、鹿児島まで九州を縦断するというロードムービーであるが、「今どこにいるのか」という部分、もっと言えばランドマークが次々と出てくるような観光地巡り的要素は、ほとんどない。物語が描こうとするのは、巻き込み役の花ちゃん@躁病と巻き込まれ役のなごやん鬱病の珍道中そのものであるからだ。そもそも思いつきで逃げ出した二人に目的地などない。場所、つまりは現実の世界への興味などない彼らは、互いの気分の高下に振り回されながら、「匿名の地」を淡々と走るのみである。
「逃亡」という名の無目的な旅は、やがてその過程それ自体が目的となり、二人に奇妙な高揚感と連帯感と達成感を与えて、幕を閉じる。しかも爽快な気配を残して。ゴールは薩摩富士の異名を取る開聞岳である。ランドマークに出会うことはすなわち現実に戻ったということでもあるのだろう。彼らの「逃亡」の旅と同じく、無秩序に展開する寸劇と丁寧に掬い取られた二人の会話(標準語と方言)の妙を、ぽかんと楽しめばよいと思う。
サイケデリックな妄想場面を「病」と結びつける手法はいささか類型的であった。また「病」そのものへの光の当て方はやや弱く、単なる陽気な女と気弱な男の組み合わせに見えなくもない。映画にとって致命的ではないけれど、それでいいのかという思いは残った。
絲山秋子関連の作品群*1は、これまでのところ、私には「はずれなし」である。
公式サイト http://www.cinehouse.co.jp/toubou/
おまけ:
初音ミクの歌うperfume、やっぱりありました。本物と印象が重なる。

ついでに「背後から見る踊るperfumeファン」アニメ。噎せ返るほどの男どもの熱気が伝わってくる!

*1:小説も映画も