三面六臂に魂を抜かれる

morio01012009-04-26

上野に行く。先日書いた東京都美術館*1東京国立博物館*2の催事を観るためである。いずれの展覧会も恐ろしいほどの混雑が予想されるから、午後の遅くから出かけることにした。

まずは東京都美術館に赴いた。日本全国の公立美術館100館が所蔵する和洋の名作220点を展示するという企画展である*3。どれもそれぞれの美術館の「顔」となっているような名品揃いであり、実に贅沢なラインナップである。およそ美術史に登場する芸術家はもれなく登場する。満遍なく観るのももちろんいいだろうが、これだけのコレクションである、自分の好きな作品をじっくり楽しむのが吉である。
セザンヌ「水の反映」(愛媛県美術館)、シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」(豊田市美術館)、ドラン「マルティーグ」(島根県立美術館)、エルンスト「森」(岡崎市美術博物館)、クールベ「嵐の海」(山梨県立美術館)、ロッソ「ユダヤの少年」(札幌芸術の森美術館)、東郷青児「彼女のすべて」(鹿児島市立美術館)、猪熊弦一郎「顔31」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)、岸田劉生「冬枯れの道路」(新潟県立美術館)などにグッと来た。フランソワ・ポンポンの「シロクマ」(群馬県立館林美術館)はレプリカでいいからどうしてもほしい*4
閉館時間を迎えた東美を後にして、隣接する東博へ移動する。昼間はすでに入館一時間待ちが当たり前になっているようだが、週末は夜間まで開館していて、5時以降のチケット売り場と会場前にはまったく列はなかった。東博の催しはたいてい圧倒的な量の展示物に感激しながらも疲れ果てることが多いのだけれど、今回は阿修羅をはじめとする20体ほどの仏像がゆったりと観られるような展示構成になっていて、無駄に集中力を持っていかれることはない。存分に仏像を堪能した。
それにしてもなんと見せ方のうまいことか。まずは法隆寺の小振りな阿弥陀三尊が置かれ、次に八部衆十大弟子を並べる。そして期待感を高めるような狭いトンネルを抜けた先に、阿修羅がドーンと据えられている。照明もすばらしい。考え抜かれたライティングによる微妙な陰影が圧倒的な存在感を生み出している。さらに背後のパネルに映し出された影までもが完全に計算されているとおぼしい。おそらくというより、きっと興福寺で観るよりも断然美しく厳かな気配を身にまとっているであろう。どの仏像もガラス越しではなく間近に観ることができるため、造作のおもしろさや違いなどがじっくりと味わえる。本当に美しい*5。人の少ないのをいいことに、いつまでも阿修羅にかぶりつきでうっとりとしていたのだった。俺様の阿修羅*6、眼福至福。
両展のすばらしい図録を眺めながら、深々とした余韻に浸っている。

*1:http://www.tobikan.jp/

*2:http://www.tnm.go.jp/jp/

*3:一部展示替えあり

*4:本物なんて買えません……

*5:かつて興福寺で阿修羅たちを観たことはある。でもまったく印象が違うように感じた。

*6:海洋堂のフィギュアがほしかったよ