国宝第一号のエリートに対面

morio01012009-09-10

せっかくtikitを大阪に持ち帰っているのに、輪行で連れ出すのは今日が初めてだった。暑い時期に無理に自転車で走っても、肝心の目的地で汗だくヘロヘロだと何もできないから、と言い訳をしてみる。
今日も今日とて、寺を巡って仏像を観てまわる。自転車があるので、洛東から洛西まで京都を横断することにした。
最初は六波羅蜜寺*1へ赴く。ここには日本史の教科書でおなじみの空也上人立像(鎌倉・重文)がある。口から阿弥陀仏リバースさせて飛び出させているあの像だ。「南無阿弥陀仏」の六文字が六体の仏になったという、まさにこれ以上の「言霊」はない。運慶の四男康勝の手になる像は、これぞリアルを追求した「空也フィギュア」である。「口から仏」がリアルかどうかはまた別の問題です。本尊の十一面観音立像(平安・国宝)は秘仏で、十二年に一度のご開帳である。ただ今年の十一月に特別公開があるらしいから、都合がつけば見に来たい。
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路地をちょこちょこと走り回り、祇園、白川を抜けて、平安神宮前に出る。そこから東に向かい、南禅寺へ。拝観したかったところだけれど、京都で神社仏閣の寄り道を始めるときりがないので、今日のところはぐっと堪えて通り過ぎた。
二番目の目的地は南禅寺の北に位置する永観堂禅林寺*2である。ここにも他にはあまりない姿の仏像がある。「みかえり阿弥陀*3」と呼ばれるこの寺の本尊(鎌倉・重文)は、首を左にかしげ、振り向いている姿が仏像として象られている。77センチの小さな像で、その振り返る姿と相まってとても愛らしい。本尊を安置する阿弥陀堂は現在彩色復元工事中で、来秋に完成する。すでに復元がすんだ箇所を見ることができるが、たいへん華やかで美しかった。来年秋の紅葉の季節*4にまた訪れてみたい。
定期的に仕事で訪れている某博物館近くのおばんざい屋で遅い昼ご飯を摂る。
くちくなったお腹を抱えて、tikitを西へ走らせる。今日の三番目の目的地は山城最古の名刹広隆寺*5である。この寺の本尊は言わずと知れた国宝第一号、弥勒菩薩半跏思惟像(飛鳥・国宝)である。この寺の開祖泰河勝が聖徳太子から賜ったというすごすぎる謂われもさることながら、なによりこの瞑想する仏像の美そのものが際立っている。広隆寺を紹介するサイトには「東洋のモナリザ」などという惹句が踊っているけれど、あちらより九百年も古いのだ、向こうを「西洋の弥勒菩薩」と呼べばいい、と急に国粋主義者になったりするくらい、この仏像は美しい。ヤスパースもご立腹だろう*6。なお付け加えるならば、本尊の弥勒菩薩の脇侍にも弥勒菩薩(飛鳥・国宝、天平・重文)が並べられている。「三つも揃うなんて、ぱ、ぱひゅ〜む!?」と思わず不謹慎なことが脳裏を過ぎったりもした。そういえば吉祥天女像も大三つ(脇に小二つ)が並べられていたなぁ。
半跏思惟像が収められている霊宝殿には国宝、重文の仏像がこれでもかというくらい勢揃いしており、主役以外のレベルの高さも尋常ではない*7。ガラスケース越しでないところもすばらしい。金縛りにあったようにこの中に1時間くらい留まってしまった。
夕刻の広隆寺の空は絵に描いたような秋の風情だった。眼福。
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*1:六波羅蜜寺 http://www.rokuhara.or.jp/

*2:永観堂 http://www.eikando.or.jp/

*3:みかえり阿弥陀 http://www.eikando.or.jp/mikaeriamida.htm

*4:永観堂は紅葉の名所

*5:広隆寺 http://kouryuji.style-xyz.com/

*6:ドイツの哲学者、カール・ヤスパース弥勒菩薩についての言:地上におけるすべての時間的なもの、束縛を越えて達し得た人間の存在の最も清浄な、最も円満な姿のシンボル

*7:弥勒菩薩を主役にして、この寺の所蔵物を東京国立博物館で展示したら、今春の「阿修羅展」や昨春の「薬師寺展」並の観客動員は間違いないと思われる