旅とアフリカと新世紀

morio01012009-11-19

冷たい冬の雨が降る中、恵比寿の東京都写真美術館に出かけてきた。今月は三つのおもしろそうな写真展をしている。

  1. 「旅 異邦へ 日本の写真家たちが見つめた異国世界」*1
  2. セバスチャン・サルガド「アフリカ」*2
  3. 写真新世紀*3

三階から順番に見て降りる。
写美の今年度の収蔵展のテーマは「旅」である。「旅 異邦へ」は夏から続けてきたシリーズの第三弾である。見ることを生業とする写真家が、非日常の未知なる異国において、何を見、何をカメラに収めようとしたのか、その営為を跡づけるものになっている。
 出展リスト→http://www.syabi.com/images/details/i_collection/collection3_1.pdf
およそ個性というものはどこでどう撮っても隠しおおせるものではないことが感得されるけれど、やはり異国ならではの風物や風俗、景色、気配といったものを、どの写真家も絡め取ろうとしているところがおもしろい(意識しているかどうかは別にして)。安本江陽、渡辺義雄、奈良原一高森山大道白川義員長野重一らの写真が特に気になった。
ハードなドキュメンタリー写真を撮り続けるサルガドの「アフリカ」展は、考えさせられることがあまりにも多い。「悲惨」としか言いようのないかの大陸の過去と今を、高コントラストの鮮やかなモノクロ写真で切り取る。余計な感傷はいっさいなく、どこまでも客観視することに徹する姿勢で、見るものに圧倒的な力で迫ってくる。美しい風紋を展開する広大な砂漠の写真は、次の瞬間、生命を育むことのない絶望の地であることを知らしめる。澄んだ光を放つ子どもたちの目が直視できない。構図だ露出だ機材はどうだといった小賢しい話の出る幕はない*4
キヤノンが支援する「写真新世紀」は新人写真家の発掘、育成を目的とするプロジェクトである。2009年の受賞作品が披露されていた。いくつか気になる好みの作品もあったけれど、サルガドの写真を見た後では、あまりにも社会や歴史からかけ離れた「箱庭的世界」に思えて、なんとなく楽しめなかった。「身の回り10メートルの世界」にしか関心がないような写真の存在意義をどう考えるのか、それはまた自分自身の問題でもあるのだけれど。
東京都写真美術館では今月末からは木村伊兵衛アンリ・カルティエ・ブレッソンの写真展がある。行かなくちゃ。

*1:http://www.syabi.com/details/collection3.html

*2:http://www.syabi.com/details/sarugado.html

*3:http://www.syabi.com/details/canon2009.html

*4:すべての写真がインクジェットで出力されていたのにも驚いた