小村雪岱で思う

芸術新潮 2010年 02月号 [雑誌]Amazon KindleApple iPadなどによって、電子出版の世界がますます注目される一方、紙媒体の本や雑誌は斜陽の一途を辿っているように見える。昨年は自分の本業に関わる老舗月刊雑誌が二誌も休刊という名の廃刊になってしまった。ベストセラーを眺めても、ごく一部の文芸作品以外はビジネス書や実用本が大半を占め、なるほどこれなら電子媒体であってもまったく問題ないよなと、やさぐれた気分になる。
本を買う、本を読むという行為は、単にそこに活字があればいいわけではなく、モノとしての質感が大きな要素を占めている。紙の手触りやインクの匂い、活字の書体や塩梅、装幀のデザイン、そして内容、そういう総合的な「芸術品」として本を眺めたいのである。素晴らしく美しい書籍を手にする悦びは何物にも代え難い。もちろんデジタルならではの美しさや利便性を疑うものではない。
芸術新潮」の最新号は小村雪岱を特集する。大正から昭和初期に活躍した小村は、広告や装幀、挿絵などでよく知られる。資生堂在籍時にデザインした香水瓶の清楚で艶やかな美しさに惚れ惚れとし、泉鏡花大佛次郎真山青果近松秋江らの作品に施された見事な装幀の数々に感嘆の息をつく。
たとえ前時代的なロマンチシズムであったとしても、きちんとしたものをきちんと愛でるのは、きっと大切なことだと思うのである。すぐに何かの役に立つとかそういうことではなくて。小村の手がけた本の数々を見て、そんなことを思った。