思索的な風景写真

Storm Last Nightパノラマ写真に刻印された風景はおよそ日本のそれとは思えない茫漠かつ広大なものである。ページを繰るたびに吹きつける風と乾いた冷気を感じさせる写真が現れる。人の気配はまったくなく、それでも時折写る古い石垣にかつての人間の営みの残滓を見つけることができる。写真全体を支配する静謐な佇まいにすっかり引き込まれてしまった。
津田直*1の『Storm Last Night』(赤々舎)に収められた写真は、かつて彼の祖父が住んでいたアイルランド西部の海岸地帯で撮影されたという。風景そのものが信仰の対象になっていた地を一幅の絵として絡め取った写真には、確かにある種の荘厳さや神秘性をも捉えているように感じられる。寡黙と雄弁のアンビバレントな関係をそこに読むことができるだろう。
これより前に刊行されている『SMOKE LINE』、『近づく coming closer』(ともに赤々舎)もまた深く思索する写真集である。知的な興奮を覚える。