1のつくカメラ

morio01012011-02-17

柴崎友香の小説にはよくカメラや写真の話が出てくる。昨秋に文庫化された『また会う日まで』の冒頭近くにも「日付を入れて撮ってみようか、と思いついた。(中略)オレンジ色の光の粒で表されている次の電車の案内を見ながら、肩から掛けているキャンバス地のバッグに手を突っ込んでカメラに触ったけれど、よく考えたらわたしのカメラには日付を入れる機能はなくて、どうしようかちょっと迷った」とある。このカメラは柴崎自身が愛用しているミノルタのTC-1である*1
よもや自分がこのカメラを手にするとは、少し前まで考えても見なかった。名前に「1」のつくカメラ*2を持っていて、別の「1」のつくの*3にモヤモヤしているうちに、さらにこの「1」のつくカメラ*4のことを思い出し、結局それに倒れ込んだのだった*5
かつて高級コンパクトカメラの雄として、リコーのGRやコンタックスTシリーズと並び称されたものである。鈍い光を放つ小さなチタンボディの内部はすべて職人による手作りで、高級時計の組み上げに匹敵する精密加工が施されている*6。そしてライカ用として採用された極めて優秀なレンズもある。これらがあいまって、身に纏う気配はただならぬものがある。硬派な、そしてちょっと地味なGR1vとは別種の輝きを放っている。肝心の写りや操作性はそれぞれの持ち味があるだろう。両機が現役機種として生きていた時代には、ずいぶん優劣が論じられていた。しかし、そういうことにはもはや関心はない。二つのカメラそれぞれの、光を吸い込む個性を味わいたいと思う。
今さら、ではなく、これからもフィルムカメラを愉しむのです*7

*1:彼女のエッセイ集「よそ見津々」の裏表紙にTC-1の写真あり

*2:Ricoh GR1v

*3:Sigma DP1x

*4:Minolta TC-1

*5:あんなに値が張っていたのに、ずいぶん安価になったものである……

*6:1台1台の動きが微妙に違うらしい

*7:針穴もローライも