現在地@チェルフィッチュ

morio01012012-04-24

独特の踊るような奇妙な所作とミニマルミュージックのような台詞回しで舞台を構築するいつもの手法ではなかった。一見、ある役柄を特定の俳優がストレートに演じるというオーソドックスなスタイルに映る。しかし、どこかにざらりとした違和感を覚える不可思議な世界が現前にあった。
極めて抽象化された舞台(椅子と机と柱のみ)には7人の女性が静かに佇んでいる。彼女たちは「現実として認識されるある現象」をいかに解釈するかで思い悩む。ある者は何かの予兆であると思い焦り、ある者はそれを意識しながら冷静であろうとする。また変化することに身を投じる者がいれば、ためらいを感じ留まる者もいる。本当の「正しい判断」などどこにもないのだということを、徹底的に戯画化して見せる。漠とした不安や輪郭のない恐怖を前にして、人はどう判断、行動するのか。言うまでもなくそれは「今のこの国」のありよう(制度をも含め)を否応なく意識させるだろう。
事実、主宰の岡田利規は震災と原発以後の状況に強く影響されて「現在地」の脚本をものしたと語っている。そして、あえてドキュメンタリーとは対極に位置するフィクションの可能性を追求しようとする。フィクションが現実の世界に対して強い緊張関係を生み出すとの意図は、ひとまず成功していると思った。ガイガーカウンターを常用する日々など、「昨日」までは完全なる絵空事、それこそSFのお伽噺でしかなかった。それが今では日常である。この笑えない現実を虚構の力で暴き立てようとするのである。唸りながら2時間を過ごした。音楽と照明が印象的。
わかりやすいものではない。想像力や読解力を強く要求される。しかし、それに挑むことで、他では得難い愉悦を覚えることができる。神奈川芸術劇場で鑑賞。
  チェルフィッチュ http://chelfitsch.net/